最高裁判決 2011.2.22

最高裁判決 2011.2.22

「親」の前に「長男」が死亡しているのだから、

「当該推定相続人(長男)の代襲者その他(孫)に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がない限り、その効力を生ずることはない」

つまり東京高裁判決と同じ考え方。この遺言書は無効。 長女の言い分通りに確定しました。

「自分より長男が先に死んでいる場合は孫に・・・」と、予備的に遺言に書けばいいだけです。

「(孫に代襲相続をさせたいのなら)遺言者の死亡以前に指定の相続人が死亡した時は代襲相続人となるべき者に

相続させる旨を補充的に記載しておくことでその趣旨を明らかにできる。

そのような遣言の例が公証実務においてまま見られることは公知の事実である。(前記東京高裁判決)」

そんなのカンタンなことだろう!

つまり簡単なことだし、普通の公証人ならそうやっているはずだろう・・・と判決は言うのです。

つまり、公証人のミスだろう・・・と言外に言っているのです。

公正証書遺言なら公証人がそう書いてくれるとしても、数多くの自筆証書にはそんなこと書かれていないことが多いはず。

「縁起でもない」し、親も長男も(公証人も)思いもしなかったのか(死亡13年前の遺言書でした)。

でも「長男が先に死んだ場合には・・・」を書くべきでした。

東京高裁判決2009.4.15

東京高裁判決2009.4.15

遺言は死亡の時から効力を生じる。

だから「父」の死亡時において財産を承継するとされた者が存在することが必要なのは当然。

だがその死亡時 には「長男」は存在しない。だから無効。

ただし遺言書については、遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべき(最高裁判決1991.4.19に より)なので、

「父」の意思として「自分の死亡前に長男が死んでいたなら孫に遺言の効果を及ぼす」と読み取れるのならそうすべき。

でもそうは書かれていない。だから地裁判決を取り消して、長女の言い分どおりに遺言書は無効。

親より先に子が死んだら・・・?

親より先に子が死んだら・・・?

長男が6月に死亡。そしてその3ケ月後に親が死亡。

「全財産を長男に相続させる」との親の公正証書遺言が残されました。

親の配偶者はすでに死亡、子は2人。3ケ月前に死亡した長男、そして長女です。

長男には子(親から見れば「孫」) が3人います。

民法第887条「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。」

孫3人は相続人(代襲相続人)となります。

ここで法定相続分は長女1/2、孫3人各1/6となります。

図をご覧ください。さて、「全財産を長男に」の遺言はどうなる?

民法985条「遺言は遺言者(親)の死亡の時からその効力を生ずる」。

つまり「全財産を長男に相続させる」とある遺言書は親死亡の時に効力が生じます。

その効力発生時には長男はすでに死亡。もはや存在しません。

民法994条「遺贈は遺言者(親)の死亡以前に受遺者(長男)が死亡したときは、その効力を生じない」。

それなら親のこの遺言も無効じゃないの・・・と思います。

さてここが微妙です。「遺贈」ならこの民法の規定により当然に無効です。

遺贈とは遺言書で財産を与える行為です。

しかし親の遺言書は、「長男に遺贈する」でなく、「長男に相続させる」と書かれていました。

「相続させる」とは「そのように相続手続きをしろ」との遺産分割方法指定です。無効となる「遺贈」ではないのです。

孫3人は「全財産を長男に相続させる」の遺言書に基づき代襲相続人として全財産を相続する(長女に遺留分はありますが)といいます。

一方で長女は遺言書は無効だといいます。そして争いに・・・。

遺留分と戦う遺言書(改正後)!

遺留分と戦う遺言書(改正後)!

「次男にあのボロ物件を相続させる」。物件相続を強制させ、遺留分請求の余地を消します。

ボロ物件が1億円相当なのか、が争いになります。

厳しい争い(裁判所による鑑定)を前提にして、鑑定評価等により押付け嫌がらせ「ボロ物件」を決めます。

新たな「闘う遺言書」が生まれそうです。

特定遺贈での頭の体操がカギ?例えば「(次男には)・・・を相続させる」。

これだとその物件だけの放棄は不可、「(長男には)・・・を遺贈する」なら可能。

課題が生まれれば対案が育ちます。

民法改正の法制審議会は激論だったようです。

押付けOK案を含め、様々な案を検討します。しかしそのまま時間切れ。

もう議論しても無駄だ、単純に金銭だけにして、押付けは不可に・・・。

反対論側からは、「単純金銭債権化に対する反論について補足説明に入れて頂けるんですね・・・」。

反対論の存在を明文で残せ!・・・議事録に残るそんな経緯。

賛否両論、紛争や乱用続出の予感です。この改正は2019年7月相続から適用。

遺留分請求を禁ず

遺留分請求を禁ず

遺言書作成での、「いかに遺留分の戦い」に勝利するか。

「遺留分請求を禁ず」との遺言・・・もちろん法的には無効ですが、

理由を切々と書き「親父がそこまで言うなら」で収まれば、その意味で有効な遺言です。

親父の相続、全財産4億円。相続人は長男と次男です。 親父の遺言書には「全財産を長男に」。

次男は遺留分侵害額請求です。

従来はモノの請求でした。それが今回の民法改正でカネの請求にかわりました。

次男は法定相続分の半分1億円をカネ・・・金銭の支払を請求します。

(「モノ…物件が欲しい」との請求はできない。)

民法改正で遺留分請求が「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる(第1046条)」と金銭請求に限定され、

モノ請求からカネ請求に。

改正前はモノ請求。

・・・次男の「遺留分減殺請求」で不動産は共有に

⇒共有解消のため「共有物分割請求」で現物分割(分筆)や換価分割(売却して分配)

⇒この手順ならば 「金銭請求」はないので仮差押等の心配はナシでした。

しかし、この手順だと物件は共有になり紛争の元凶に。

そこで民法改正は「共有にならないこと」を目指しました。

改正後はカネ請求。・・・「遺留分侵害額請求」で「現金で払え」⇒金銭請求なので⇒共有にはなりませんが

⇒長男固有預金の仮差押が可能になります⇒ただし、裁判所が土地処分等を考慮し、相当の期限を認めてくれますが (1047条⑤)。

次男の立場が強くなり、経営者地主資産家の不注意遺言書は後継者長男を破綻させます。

従来は争いにお互い疲れ果てた頃に蜘蛛の糸が下りてきて何とか解決にたどり着きました。

それが問答無用「カネ払え」ヘ・・・。

自社株、工場、自宅は売れません。そこへ「カネ払え」の内容証明。

相続財産はモノだけ。長男が無視を続ければ、長男固有の預金へ仮差押、更に遅延損害金。

それはギリギリでも経営を続けた中小零細経営者へのトドメになります。「もう疲れた・・・」。

従業員には「申し訳ないけど・・・」。長年続いた町工場も、地元雇用も消減します。

M&A仲介会社(事業売却)、不動産仲介(会社清算)、職安 (従業員解雇)の出番です。生前対策には生命保険(現金準備)。

死因贈与とは・・・?

死因贈与とは・・・?

『私が死んだら、〇〇の財産は××に贈与する!』

これを死因贈与と言います。相続人以外の方にも、こんな財産の渡し方が契約を取り交わすことで可能になります。

契約ですからもちろん双方合意の上、それを書面にして公正証書にしておけば、更に法的にも安定性を増すでしょう。

これにより、冒頭のような懸念は完全に払拭することができるのです。

では初めに、死因贈与とは法律的にどんな贈与を言うのでしょうか・・・?

一言で言えば、「死亡を原因とする贈与」と言うことになるでしょう。

つまり、死んだら、その事を原因として〇〇の財産が贈与されると言うものです。

多くの場合、死んだら財産を渡すと言うのは、亡くなる方の意思に基づいて行われるもので、「遺贈」と言われる単独の行為です。

遺言書によってその意思表示がなされます。

それに対し、死因贈与は贈与者(財産をあげる人)と受贈者(財産を貰う人)双方、両当事者によって行われる契約行為です。

だからこそ、確実に実行されることが期待できるのです。

死因贈与は贈与税の対象か?

死因贈与は贈与税の対象か?

「相続人以外の方に財産を残したい」と思うこともあるでしょう。

遺言と言う手段でそれを実現させることは可能です。

生前に予め遺言の内容を知らせていれば、貰う側の方も心の準備ができるかも知れません。

しかし、仮にそんな約束があったとしても、相続人でなかったら、その遺言書を見せて貰える保証はどこにもありません。

場合によっては、遺言書はなかったことにされ、

相続人全員による「分割協議」により財産分けが終わってしまうこともあり得るのです。実はそれを回避する方法が・・・?

法務局が遺言書を保管する!

法務局が遺言書を保管する!

仏壇にあった遺言書。

さてどうなるのか・・・。

第一発見者次第です。皆が誠実とは限らず、都合悪ければ、破られたり隠されたり・・・。

自筆証書遺言には保管制度がありません(一部弁護士会に有り。公証人による公正証書遺言は保管され検索可)。

紛失・亡失(見つからない)や廃棄・隠匿・改ざんを防ぐための保管サービスを、法務局が平成32年7月までに始めます。

ある男が自筆証書遺言を作成。

自宅には置かず、本人が地元法務局(住所地、本籍地、所有不動産所在地のいずれか)に持参して、「出頭」(法律の表現)します。

法務局の担当官が本人確認し、その遣言書をチェックします。

内容のチェックはせず外的条件チェックだけです。

日付はあるか、訂正方式は問題ないか。「あなたの自筆ですか」と問うでしょうが、

筆跡鑑定などはなく「本人自筆じゃない」と後々もめる余地は残ります。

内容をチェックがないので素人作成の大もめ確定、欠陥遺言書もそのまま保管です。

公正証書遺言なら公証人は入院中の病院にまで出張してくれます。

法務局保管サービスは本人出頭必須で代理人はダメ。公正証書なら人違い防止に証人2人立合ですが法務局では証人ナシ。

「なりすまし」余地あり・・・?です。

 

法務局は保管した遺言を画像ファイルにします。

日付や遣言者名(その男)、受遺者名(「飲み屋のママA子に甲マンションを遺贈する」ならA子)、等のデータを法務局データベースに登録します。

これが遣言の保管です。

保管の撤回を望めば、遺言は返還され、データは、削除されます。

「飲み屋のママB子に甲マンションを遺贈する」と書き直して出頭し、新たな保管もできます。

その男(遺言者)が亡くなります。その男の相続人は全国どの法務局(全国オンライン)からでも、

「もし(父の)遺言があれば見せて下さい」と申請でき、あれば証明書(画像ファイル等「遺言書情報証明書」)の交付を受けます。

法務局は証明書を最初の1人に交付したら、他全員(相続人受遺者等)に保管の旨を通知します。

男は生前「飲み屋のママA子」と「飲み屋のママB子」に「甲マンション残してやるよ」と口約束し、「俺が死んだら法務局に行けよ。」

A子ママもB子ママも「何人(なんびと)も」(法律の表現)、「亡あの男の遺言はありますか」と法務局に尋ねられます。

受遺者としてデータ登録のある「A子ママ」だけは「あります」と教えてもらえ、証明書の交付へ。

B子ママは対象外。「嘘だったの~(悔)」と嘆くだけです。

この証明書により不動産登記や預金名義が変更できます。

位置付けは「新たな公共サービス」です。(法制審部会H28.5.17)、実費を考慮した手数料で済みます。

安全性なら公正証書遣言ですが、廉価な公共サービス登場です。

顧客へアドバイス必須の新制度で、司法書士や行政書士などはビジネスチャンスです。

人が死ぬと、法務局保管の遺言書の有無を必ず確認する時代がいずれ到来しそうです。

民法改正で次が追加!

民法改正で次が追加!

(民法第968条②)
前項(第968条)の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、

その目録については、自署することを要しない。

この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(両面に会ってはその両面)に署名し、印を押さなければならない。

目録部分は自筆でなくてOKに。つまり、代筆もワープ口打ちも通帳や登記簿のコピーもOK。

※別紙にそれぞれ署名と押印が必要です。

物件毎に別紙作成も、全物件をワープロで一枚の目録化も可能です。

その結果、アヤフヤで微妙なものとなり、紛争が勃発しそうです。

自書緩和でボケ老人が第三者にいいようにされる危険…そのおそれは既にあり、程度問題との考え方も成り立つ。

厳格さの問題は仕方ないとの評価もあり、目指すは安価で専門サービスの提供の観点も。紛争多発との兼ね合い。
(法制審議会部会議事録H27.9.8)

印鑑は同一でなくてもOK。

契印不要、つまり綴じなくてもOK。

よって書類一体性の証明は署名だけ
(法制審議会部会資料H29.6.20)

上記遺言書式は部会資料H29.12.19

平成31年1月13日の遺言から適用。

法務局が行う自筆証書遺言書の保管制度が始まります。制度利用なら面倒に検認手続(全相続人が裁判所で会する)が不要に・・・。

今改正は、「持ち戻し不要」により妻へ自宅遣贈なら妻の相続財産を増やせます。

家裁の遺言検認数は、1985年3,301件、2002年10,503件、2017年17,394件。今後も遺言は急増するでしょう。

公正証書遣言は高コスト。専門家による低コストの遣言書作成支援ビジネスが始まります。

遺言お手伝いは、将来の相続処理ビジネス受注の入り口です。

相続法改正(自筆証書遣言での目録部分はワープ口OK!)

相続法改正(自筆証書遣言での目録部分はワープ口OK!)

相続法が改正され、遺言書も変わります。

全て自筆で書き(アタマからシッポまで)、日付(何月吉日はダメ)を自筆し、押印するだけです。

お客様のご自宅に伺ったついでに、「まだ書いてないのですか。今書きませんか。」

その場で自筆証書遣言を書いていただきます、が可能になります。

妻も「全財産を夫、太郎に・・・」。

印鑑ぐらいは実印を頂きますが、三文判でもOK。ちゃんと便箋に書いてもらいますが、新聞広告のウラに書いてもOK。

お仏壇にしまいます。お客様は何やらホッとした顔をなさいます。もちろん万全な遣言書作成までのつなぎ遺言書ですが・・・。

しかし、効力は公正証書遣言と同じ。直近分が有効で、昨日の公正証書遺言でなく今日の自筆が有効です。
——————————————
(自筆証書遺言)民法968条
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押さなければならない。
——————————————

もし夫が死亡なら「お前たちで仲良く分割できれば、この遺言書を破り捨てる。もしそうでなければ・・・」と子に言えます。

破り捨て前提の、遺留分侵害の簡単自筆証書遺言、子へ睨みをきかせるには効果絶大です。

さて、「全財産を・・・」なら字数も少なく全て自筆も簡単で容易です。

しかし、妻はアレ、長男はコレ、次男はソレとなると役に立たないのが自筆証書遣言です。

不動産が幾つもあれば、「所在地:何丁目何番何号地目宅地面積何平米」とズラズラ、

預金なら「何銀行何支店普通預金口座番号何々口座名義人誰々」。

ズラズラの目録まで全自筆。それは無理。

誤記訂正は面倒、ゴム印もワープ口も代筆も一切駄目。

資産家の遺言書の財産目録欄には不動産・預金・株式等々が延々続き、全て自筆で書くのはお年寄りには煩雑で不可能です。